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2012/09/27[院長コラム]歯科医療って何? その4 それって、やりすぎじゃない?
こんにちは。
10月となりました。赤とんぼがこの用賀にもだいぶ飛んできたりとようやく来た秋を染み入るように感じています。
今回は世俗的なお話です。
当院から100m程離れたと所に人呼んで「歯医者通り」があります。なんとその道路ぞいのそれこそ200mほどの間に歯科医院が6件!!あるんです。一時コンビニより多い歯科医院などと揶揄されていましたが、コンビニどころの話ではありません。どうなっているんでしょうか??
同じ歯科医療従事者として極めて近隣の歯科医院の経営者として「本当に健全な経営が成り立っているのだろうか?」「きちんとした医療が提供できているのだろうか?」などと余計な心配をしてしまいます。正直、極めて近隣の当院に影響が無い訳はありません。それでも当院は歴史と技術、そしてホスピタリティーを地域の方々に支持して頂きなんとかかんとかやっています。
歯科医院に限りませんが、経営には固定支出と変動支出があります。平たく言えば患者さんが一人も来なくても、固定支出である毎月のオフィスの家賃、人件費、などは支払い続けなければならないのです。どうやって収入を得、経費を支払っているのでしょうか。
例えば新たに出来たオフィスの家賃は幾ら位なのでしょうか?一番最近出来た歯科医院の家賃は50万円だそうです。ある商店街の理事の方が仰っていました、「高橋先生、今度あそこに歯医者さんが入るらしいんですけど、家賃50万円でやっていけるんでしょうか?いくらんでもね〜。歯医者さんてのはリサーチとかしないんですかね??」と心配したり不思議がっていました。全く同感です。しかしその理事の方の言葉の裏側には『これだけ沢山歯科医院があっても食べて行けるとは、やはり歯医者さんはいい商売ですね。』と言う本音があるのではないでしょうか。はたして裏読み過ぎでしょうか、そしてこの本音をどう受け止めればいいのでしょうか?
「実態は、とてもじゃないがそんな楽な状況じゃない!!」って事は歯科関係者の方はよ〜く分かっていらっしゃると思います。日本は基本的に自由経済市場ですので、誰がどこに開業しようと自由な訳ではあります。しかし、それは患者さんに恩恵があって善しとされることです。モノやサービスであれば、自由競争で「より安くより良いモノやサービス」が消費者の手に入るという大義名分があるかもしれません。(実はこれもまやかしだと私は思っています。もっと長く広い眼で自分達の社会の営みを理解しなければ結局とどのつまりは一時の安価なお得感が永続的な貧しさとして跳ね返ってくると、考えています。次回はこのあたりを書きたいですね。)が、歯科医療には良いか悪いかは別にして「国民皆保険」という枠組みがあり、少なくとも保険治療に関しては治療費は治療内容の出来高払いによって決まっているのです。基本的に格安という事にはなりません。慈悲治療にしても後述するように格安歯科医院が最近増えてはいますが気をつけるべきなのです。要はどう転んでも歯科医療に関しては以前か述べているように「安かろう早かろう良かろう」という事にはならないのです。
逆に「安かろう悪かろう。」いうことにもなりかねないのです。 つまり、「歯医者さん通り」の様に競争が過度に激しくなると結果的に患者さんの奪い合いになり、収益が下がります。しかし、固定費は変わらず支出するため収益を維持する為に変動経費を押さえなければならなくなります。つまり材料の節約や技工料(銀歯や冠、入れ歯をつくるラボへ支払う費用)の節約です。問題なのは歯科医療では材料の節約は材料の粗悪化であり、技工料の抑制は技工技術の劣悪化や技工金属の質低下とならざる得ないという事です。そのような中で、技工を中国に発注するというシステムがまかり通っている訳です。もちろん、「歯医者さん通り」の歯科医院がそうであるという事ではありませんが、一般的にはそう言う図式になってしまうのです。
また、過度の競争は別な側面から歯科医療の本質を歪める影響があります。変動支出を抑えてまだ収益が改善されなければ次の策は固定支出の削減です。設備投資の見直しは無論、人件費の抑制を考えなければなりません。すぐれたスタッフを雇用出来なくなる、スタッフそのものを雇用出来ないという弊害です。私は以前から歯科医療の本質は「チーム医療」だ。と、言って参りました。歯科医療は歯科医師一人で頑張って良い治療結果がでる者ではありません。歯ブラシ指導をし除石をする歯科衛生士をはじめ患者さんの気持ちに寄添う受付やクリカルコーディネーター、そして銀歯や冠そして入れ歯を作るしか技工士。それらの人々の協力があって初めて良い治療結果や予後がある訳です。健全な経営がなければ、歯科衛生士を雇用したいのに無資格の助手で代用したり、先程らい言っているように中国へ技工装置を発注したりと言う具合になってしまうのです。
この様な体制で収支は改善するかもしれませんが、それが良い歯科医療といえるでしょうか?患者さんの為と言えるでしょうか。
それでも、若い先生方は「歯医者さん通り」に開業せざる得ない状況があるのです。そのような状況を食い物にする業者が沢山居ます。そして、そうした自体を野放しにしている政府と行政、そして日本歯科医師会。割を食うのは国民なのです。誰がこの責任をとるのでしょうか。
後発の開業をされる若い先生方を可哀相にと思う事も多くあります。多くの歯科医師はだいたい、三十代前半から後半にかけて開業をします。大学を卒業して10年位でしょうか?それまでは、大学や開業医の勤務医として働いているはずです。患者さんの多くは10年も歯科医師をやっていれば一人前と思われるかもしれません、確かに10年位やっていればどうにか一通りの事は出来るかもしれませんが一人前にはほど遠く、つまり開業する30代と言うのはちょうど開業しながら研鑽も続けなければならない時期なのです。けれども、あまりにも過当競争が激しいため、最近開業されている先生方は日曜祝日も診療をしている訳です。これはある意味普段忙しい患者さんにとっては有難いことかもしれません。けれども、その先生方は一体いつ?研修、研鑽をされているのでしょうか。研修会や検査をすべき様々な機会の多くは土曜日や日曜日に設定され居るのです。
きっと、若い新進気鋭の先生方はもっと勉強をし研鑽したいのではないでしょうか?なのに、それをする時間もお金もない。その一方でいかにも研鑽をしかのようにコマーシャルをし難しいあまり一般的ではない技術をさも容易に提供出来るように振る舞わなければならない。様々なプレッシャーに苦しんでおられるに違いありません。
その様な世間の流れの中で、新たな形態の歯科医院が出現しつつあります。当院の隣町にそれは最近出来ました。外見は普通の歯科医院です。名前も「○○(地域名)歯科医院」なる一般的な名称です。が、とある事からその歯科医院のHPを見ました。なんと、30代前後でしょうか若い同窓(同じ大学の出身)の先生方が20名近く登録されているのです。それぞれ専門分野があり曜日交代制で勤務され居る様です。一応、管理者としての医院長は居ますが、その先生も他の先生と同じくお若くていらっしゃいますので、指導は誰がするのでしょうか、オナーは他にどなたかが居る様な感じです。まあ、大学病院の出張診療所的な感じでHPもその様な事を唱っています。このシステムは良い所と悪いところがあります。まあ、色々ありますが、歯科医師の顔が見えない、歯科医療哲学が無い。そして営利目的。という事が問題となるでしょうけれども、若い先生方の受け皿としては良い点もあり、これからこう言った型式のオフィスが増えるのかもしれません。
勿論そこで働いている個々の先生方が良い悪いを言っているのでははありませんが、私くが長く診させて頂いていた患者さんの往診へ行っていた折り、ケアマネージャーさんから介護保険を使うなら高橋歯科醫院ではなく訪問診療の企業グループ傘下の「○○歯科医院」へ乗り換えてくれと言われて困っているとの相談を受けたのです。
これから、そう言ったトラブルが増えるのは困ったモノです。
このように、過度の過当競争は医療現場に幸いをもたらしません。
我々歯科医師はもう一度「誰のための歯科医療なのか?歯科医療とは何か?」をよくよく考えて行かねば最終的には国民から「歯医者はいらない!」と言われかねない事を内省すべきだと思っています。
と、同時に皆様方へは歯科に限らず医療現場にそして自由経済市場のスケールでは量れない「モノとサービス」もあるんだ。という事、一時期の割安感を求めるのでなく永続的な本当の豊かさを考えて欲しいと心から願っています。
次回はそう言った状況を作った原因などについて考えたいと思います。