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2023/03/21[院長コラム]歯科医療の脱商品化
こんにちは
今月末は花粉症に風邪(コロナ、インフルでない。念のため)、そして坐骨神経痛が酷くて難儀をしております。
ここの所の陽気でソメイヨシノの開花が進みお花見気分満開、さらにWBCでの侍ジャパンの快進撃がさかんに報じられていますね。メディアは他に報じるべきニュースがあると思うのですが、国民をはじめとしてどうしてこんなに無関心、無理解、無想像力なのでしょうか。
前回のブログでは、食べ物の商品化の問題を最後に取り上げました。資本主義はあらゆる「富」を労働を介して商品化します。医療もまた然りです。医療もしくは歯科医療の商品化と言うと皆さなんはおそらくピントこないかもしれません。しかしながら、今や医療も歯科医療も(自由診療という領域がある歯科医療はより一層)商品化の洗礼(呪い?)を免れなくなっています。
歯科医療関係者ならば誰でも知っている事ですが、今やあるとあらゆる分野の技術や技術に必須な高額な機器が商品化してネット上ではそれらをいかに経営に結びつけ余剰利益を得るかというセミナーが溢れかえっています。収益30%アップとか月収1000万円増収、年商1億円の〇〇歯科医院に学ぶとかです。例えば、皆さんがよくご存知のホワイトニングや審美歯科などは旧来の歯科医療の範疇から逸脱した分野です。何故その様な逸脱した新たな分野が歯科医療として皆さんの目に止まる様になったのでしょうか?それは資本主義社会では商品化したものやサービスに対して「人間の欲求を満たす」ことよりも「資本を増やす」事自体が目的になっているからです。つまり資本主義社会では労働によって生み出される「商品」は人々の生活に本当に必要なものから「売れそう」なもの「儲かりそう(資本の増殖を促する)」なものへシフトして行かざる得ないのです。
そしてそのサイクルは際限なく続きより深く私たちの肉体や精神に食い込んでいくのです。
わたしは今年の9月で65歳になり高齢者であり、そろそろ引退の世代となっています。幸か不幸か歯科医師には定年制がないため、自分の心身が歯科医寮において十二分なうちは自分自身で引退時期を設定できます。その様な歳になり、先にも書いた様なインターネット上の様々な商品広告に辟易とし、それらの商品に使われている若い優秀な歯科医師らの将来を憂うとともに肌合いの違いや違和感を日々強く感じるようになっていました。
そう、毎朝目覚めて考える様になったのです。「一体、自分はなんのために働いているのだろうか?」この後に及んで自分のやりたい、出来うる最良の診療をあせくせせずストレスなく必要十分な使用価値で行いたいと思う様になったのでした。
幸い最後の借金がこの12月で終わります。あとは食べるに困らず、ある程度の不自由のない生活が死ぬまでできればいいと思っていたのですが、あと数年さらにより精緻な成功率の高い患者さんの要望に応えられる予後の良い治療がしたいという欲望を断ち難く、引退を予定より数年先にして(苦笑)新たなリスクを押し設備投資を行う予定です。一方で、その様な大きな設備投資に関わらず実は様々な細かいレベルで採算を度外しした医療技術や機器を用いた診療をここ2〜3年ごく普通の保険診療として行っています。患者さんらにその違いを説明はしておりません。わざわざ押し付けがましい様で嫌なのです。しかし、時として患者さんはそこまで望んではいないのでないのか?己の自己満足、マスターベーションでしかないのでは??とも感じます。その意味で私は歯科医療従事者としてこの資本主義社会では失格です。おそらく現代においてはそこそこのレベルで商品価値をより効果的に(過大に)アピールし患者さんに支持され、スタッフの豊かな生活を保障し、新たな設備投資とともにイノベーションを怠らない様な歯科医師像こそが及第点つく歯科医師なのででょう。
私は昭和33年生まれです。いわゆる時代的には高度経済成長下の申し子ですし父が歯科医師でしたので比較的裕福な生活を享受していたと思います。いわば身も心も資本主義の商品にまみれて生きてきたのです。けれども、幼少の頃の病弱な体質のため?少しひねくれた性格のため??自然や天然に興味を深くしていたためか??? 以前より資本主義の拡大・成長し続けるという本質に深い疑念を持ち続けているのです。
より遠くへより早くのフロンティアを貪っていた資本主義の限界が見え、さらに地球温暖化問題や、富の偏在と格差社会、グローバリズムによるエネルギー、食糧危機をもたらした資本主義の弊害が露わになった今。以前にも書いたかもしれませんが、世界的な経済学者である故宇沢弘文氏が後年言う様に、歯科医療もまた「社会的共通資本」として資本主義・市場原理の頸木から離す必要性とともに斎藤幸平氏の言う所の「資本論」の中でのコモンとしての富として資本主義から自由になるべきなのです。グローバルな資本主義に決別した人間を含めた地球システム回復のための社会を作っていかなければならない上で、「歯科医療」もまた方向を同じにしなければならないのです。