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2022/07/13[トピックス]チタンインプラントの新たな可能性

報道機関 各位

2022年6月24日

東北大学大学院歯学研究科

体本来の再生能力を引き出すチタンインプラント

―生体を模倣したチタンナノ表面の開発による歯周組織再生に成功―

【発表のポイント】
l ヒト歯根表面の物理的性質を模倣するように表面特性を改良したチタンインプラン

トを開発しました。
l この生体模倣チタンインプラントは、埋植部位に存在する内因性幹細胞*1に働き

かけることから、生体本来の再生能力を活性化させ、細胞移植をしなくても、天然 歯周囲にあるものと同等の歯周組織を誘導しました。

【概要】 歯科用インプラント治療は、人工の歯根(インプラント)が顎骨と生着することにより

成り立ちますが、本来ならば天然歯周囲に存在する歯周組織がないため、様々な臨 床的課題が報告されてきました。これまでは、特殊な細胞を移植する以外、歯周組織 がインプラント周囲に導かれることはありませんでした。

東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野の山田将博准教授およ び江草 宏 教授らの研究グループは、歯根表面に存在する歯周組織の一部である セメント質の物理的性質を模倣したチタン表面を開発しました。その生体模倣チタンイ ンプラントにより、元来存在する体内の再生能力を司る内因性幹細胞の機能が制御さ れることで、細胞移植をしなくても、生体内で歯周組織を誘導させることに成功しました。 本研究成果により、歯の再生に近い歯科再生医療の提供に近づくと期待できます。

本研究成果は、2022 年 6 月 13 日に米科学誌 ACS Applied Materials & Interfaces のオンライン版に掲載されました。

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www.tohoku.ac.jp

図1. 生体模倣チタンナノ表面による歯周靱帯の誘導の概要

【詳細な説明】 歯科用インプラント治療は、顎骨と生着することにより成り立ちます。しかし、天然歯

歯根周囲を取り囲む靱帯組織である歯周組織がないため、上物のクラウンが壊れや すい、成長期にある若年者に適応できないなど、様々な臨床的課題が報告されてきま した。これまで、特殊な細胞を移植する以外、歯周組織がインプラント周囲に導かれる ことはありませんでした。

一方、再生医療において、細胞移植を伴わない安全で費用対効果の高い組織再 生法として、宿主の体内に存在する内因性幹細胞*1を制御することにより、生体本来 の治癒能力を活かして組織再生を導く内因性組織再生の概念が注目されています。 自分自身の歯根を別の部位の顎骨内に移植する自家歯牙移植治療では、移植部位 で歯根膜幹細胞*2が働くことで、移植歯周囲に歯周組織が再生します。

そこで山田将博准教授および江草 宏教授らの研究グループは、歯根表面の組織 であるセメント質が歯周組織再生を担う歯根膜幹細胞の機能を制御すると仮定し、歯 根セメント質の性質を模倣した表面改質を歯科用インプラントに施すことで,インプラ ント周囲に歯周組織を導く戦略を着想しました。同研究グループは、チタンインプラン トをある特定条件のアルカリ溶液へ浸漬することにより、幹細胞の機能制御にとって重 要なナノ表面形態とマイクロメカニカル特性に関して、ヒト歯根セメント質を模倣したチ タンナノ表面を創り出すことに成功しました。この生体模倣ナノ表面チタンインプラント を抜歯直後の顎骨に埋植すると、抜歯窩内の歯根膜幹細胞の再生能力を活性化させ、 細胞移植無しに、正常に機能する歯周組織がチタンインプラント上に再生されることを 見出しました。

本研究は、その成果として、バイオマテリアル表面に生体組織の物理的性質を模倣 した表面特性を付与することにより、バイオマテリアル自体が内因性幹細胞を調整して 標的組織を誘導する革新的な歯の再生治療戦略の道筋を示しました。このナノテクノ ロジー技術による組織再生は、生体分子や細胞などの生物資源の移植を必要とせず、 体本来の再生能力を引き出すことにより導かれるため、医療機器開発に向けた法令 上のハードルが比較的低いこと、侵襲性が低く費用対効果の高い再生歯科医療を提 供できることが期待できます。さらに、生体組織の物理的性質を模倣するバイオマテリ アルで組織再生を導く新たな再生医療の道筋を示しました。本研究成果は、2022 年 6 月 13 日 ACS Applied Materials & Interfaces のオンライン版に掲載されました。

本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B:17H04387、20H03874)、生体医歯 工学共同研究拠点(2016–2020 年度)、東北大学病院若手研究者による臨床応用研 究推進プログラム(2018-2020 年度)および中尾世界口腔保健財団受託研究の一環で 行われました。

【用語説明】
*1 内因性幹細胞:生体組織中に元々存在する体性幹細胞で、自己複製して特定 の細胞型に分化して組織を治癒する能力をもつ。
*2 歯根膜幹細胞:歯周靱帯中に存在し、歯根セメント質、歯周靱帯および歯槽骨 を再生するそれぞれの細胞型へと分化する能力をもつ間葉系幹細胞に類似した性質 をもつ体性幹細胞と考えられている。

【論文情報】

Journal: ACS Applied Materials & Interfaces
Title: Titanium Nanosurface with a Biomimetic Physical Microenvironment to Induce Endogenous Regeneration of the Periodontium
Authors: Masahiro Yamada, Tsuyoshi Kimura, Naoko Nakamura, Jun Watanabe, Nadia Kartikasari, Xindie He, Watcharaphol Tiskratok, Hayato Yoshioka, Hidenori Shinno, Hiroshi Egusa
DOI: 10.1021/acsami.2c06679

【問い合わせ先】
(研究に関すること) 東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野
准教授 山田 将博(やまだ まさひろ)
E-mail: masahiro.yamada.a2@tohoku.ac.jp

東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野 教授 江草 宏(えぐさ ひろし) E-mail: egu@tohoku.ac.jp

(報道に関すること) 東北大学大学院歯学研究科広報室 電話: 022-717-8260
E-mail: den-koho@grp.tohoku.ac.jp