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2021/04/11[院長コラム]映画「ノマランド 」によせて

こんにちは

 

先週、アカデミー賞受賞の呼び声高い「ノマランド 」を観てきました。静かにそして力強く心に染み入る映画でした。

ご存知ない方に簡単にストーリーを説明すると、夫を亡くし石膏鉱山の閉鎖で住んで居た街自体が郵便番号ごと消滅を経験した初老の女性がバンをハウスとしてアメリのあちらこちらを放浪するという筋書きです。アメリカでは車上生活者らのことをノマド(遊牧民)と総称するようです。

映画自体は実際のノマドの人たちが多く出演しており季節労働者としてアマゾンで働く様や年金だけでは生活ができない社会背景や過酷な生活が描かれる一方で美しく厳しい自然の描写とともに現代資本主義の消費行動から身を引いた自由さや生きることの本質を謳って居るように感じられました。

私がこの映画を観て1番に感じることは最近頻繁に耳にする「多様性、多様な価値観」と言った事柄でした。それはこの映画が肯定的にポジティブに捉えられると同時に見方によっては同じ場面同じストーリーが否定的にネガティブにもなり得るからです。

愛する夫を亡くし、その思い出を引きずるように社宅で生きてきた主人公そして儚い生活の場さえ剥ぎ取るように街や仲間そして郵便番号まで消滅させてしまう資本主義。退去しノマドとなった主人公は福島原発事件で故郷を去らざる人々を思い出さざる得ませんでした。さらに社会保険制度が脆弱で年金だけでは暮らせないノマドの高齢者達がクリスマスの季節労働者として働くアマゾン配送現場、一時雇用の身分を寄せるバガー店や国立公園の清掃係など社会的弱者や歪みの現実を見せつつ、ストーリーでは年金の早期給付を勧められる主人公が強い口調で「働きたいの!」と言い、ステー先各地で他のノマドからいつでもおいでと声をかけられたり一緒に一つ屋根の下に住もうと誘われたり、駐車場では向かいのガソリンスタンドの女主人に屋根を貸そうとの申し出を受けるなどの人の優しさを描きつつあえてバンの車中泊に固執する主人公を丁寧に映して居ます。

また、アメリカならではの大自然の美しくも厳しい風景とその中で生き生きと呼吸し笑みを浮かべる主人公。愛される妹としての一面と安定し現代社会(資本経済主義)の具現者としての姉家族や好意を抱いている元ノマドの家ではどうしても生理的に暮らせない主人公。自由と不自由の二律背反の中で生きていくことの過酷さと清々しさ。どの場面一つを取ってもその多面性があり、どう感じるかは人それぞれであり、むしろ「君のその生き方ちょっと立ち止まってみないか?」と我々に問いかけているように感じました。

うがった見方かもしれませんが、何故かこの映画にはプログラムの発売がありません。プログラムのような型にはまった見方をしないで欲しいという表現者の希望なのでしょうか?

是非、興味のある方はご覧になって下さい。人それぞれに、それぞれの人生を。